第2話 ナイトクラブの扉を叩いた田舎娘
見てはいけないホントのアオザイ娘
〜第2話 ナイトクラブの扉を叩いた田舎娘〜
ハノイにはナイトクラブと呼ばれる売春クラブが存在する。
同僚はよくここを利用していたのだが、私は風俗だという話を耳にしていたのでそれまで頑に断っていた。
ところがある日、同僚が仕事の任期を終えて帰国する事となり、最後だからということで一緒に行く事を了承した。
だがそれが、これまでの私のベトナムの印象を覆すこととなった。
某ホテルの中に併設されていたナイトクラブ。
中は大きなホールになっており、いくつものソファが並べられ、ステージでは生バンドが演奏していた。
ホールの左右にはカラオケが備えられた個室が設けられており、別料金でそちらも利用出来るようになっている。
客は全て外国人で、肌をあらわにしたドレスを召した女達をソファではべらしている。
彼らは酒を飲みながらキスをしたり、胸を触ったりとやりたい放題だった。
何やら同僚がボーイらしき男に耳打ちすると、我々は個室のカラオケに招かれた。
数分の後、カラオケ店と同じようにたくさんの女性が入ってくる。
だが異なっていたのは、彼女らの胸には番号が書かれた名札が付いていたことだった。
「女の子は一回しか見せないから、気になった子がいたら番号を覚えてくれ」(英語)
と、ママさんらしき中年女性が言っていた。
そして、1回に10人程度の女の子が入ってきては、我々の指名を求め、指名がないと次々と他のグループと入れ替わった。
私は数名の番号を紙に控えていったが、カラオケの若い女の子達と比べて、明らかに年がいった20代後半〜30代の女達に、イマイチ気が乗らなかった。
だがその中に一人、下をうつむいたショートカットの女性がいた。
5、60人くらい見た後で、ママさんが「もう女の子はいない、早く決めてくれと」我々を催促してきた。
最終的に、私は気になった女性が2人いた。1人はスレンダーで胸が大きく、いかにも人気のありそうな女。そしてもう一人は例の下をうつむいたショートカットの女である。
同僚達は先に番号を伝えていく。だがその中で、私の1人目の候補は同僚の指名とかぶり、結局私は、ショートカットの女を指名した。
周りの同僚はゲームを始めたり、ソファに女を押し倒したりとそれぞれ始めていたが、その女は私の隣に座るなり、終始無言だった。私が日本語や英語でといかけても何も反応がなく困っていると。他の女が言った。
「ソノコはきょうハジメテデ、ニホンゴもエイゴもワカラナイヨ」
すると今まで無言だったショートカットの女は、その女に向かって何やらベトナム語で伝える。だが相手は無視をして、私の同僚とキスを再開した。
私は状況を理解し、簡単な英語を使って会話を試みる。だがYesもNoも分からないベトナム人がいた事には、さすがに心が折れそうになったが、友人がテーブルに置いていた辞書を拝借して、なんとかコミュニケーションをはじめた。
名前はヴァン。年齢は23歳(のちに27歳と判明)で、出身はハノイでないということだけは分かった。
その後会話は弾まずただムダに時を過ごしていたが、夜の11時を回った頃、突然に同僚が言った。
「どうするの?その娘を持ち帰りするの?」
いつものカラオケの雰囲気になっていたので、思わず、はっ?と答えてしまったが、ここが売春クラブであることを思い出し、状況を理解する。私は首を振ったが、また別の女が口を挟み、ヴァンに何かを確認すると、わたしにこう伝えた。
「ソノコ、アナタのホテルいきたい。アナタドースル?」
私はヴァンにジェスチャーで、彼女の顔を指差してから、その指を私に向けてホテルへ行きたいのか?と伝えると、彼女はコクリと頷いた。
私は本心ではヴァンを持ち帰りしたかったのだが、それ以上に何か、自分が変わってしまう気がして不安がうわまっていた。
回答をあやふやにしていると、すでに会計が進められていて女達は何かを待ち望んでいるかのようなそぶりを見せていた。すると同僚が言った。
「あ、チップ渡して。つまんなかったら2、30万ドン、満足したら4、50万ドンね。」
さすがに無料でお触りさせる訳ないかと納得する。
私が支払った料金は全部で$65程度である。女の子の指名料$25、飲み物$20(女の子も含む)、チップ50万ドンだったと記憶している。カラオケの部屋代は同僚が支払ってくれた。
(現在ナイトクラブのシステムは変わっており、併設されたホテルの部屋代$50とチップ$100以上を請求されるそうです。)
会計を済ませると、女の子達はそれぞれのパートナーに腕を回して部屋を出て行く。
その時である。なぜそうしたのかは分からない。だが体が自然とそうしていた。取り残された私は、財布に忍ばせていた自分のホテルの名刺を取り出した。そして電話番号を書き、サッとヴァンに渡す。ヴァンは驚いた様子もなく、ニコッと初めて笑顔を見せた。
私は一瞬ドキっとしたと同時に、大きな過ちをした気がしてならなかった。
店を出ると同僚達はそのホテルのロビーのソファに腰を下ろす。
「女の子達が着替えて来るから待ってて。っていうか、持ち帰りしたの?」
私は適当な事をいって、首を振った。
実際、彼女がどうするか分からなかったし、私もどうしたいか分からなかったからだ。
数分後、私服を着た数人の女達がやってきたが、結局その中にヴァンはいなかった。
私は安堵し、持ち帰りをしなかったもう一人の同僚とタクシーに乗り込んだ。
ホテルに戻り、シャワーを浴びてからテレビを付ける。
今日の出来事を思い出しながら、少し気を落ち着かせると、私の携帯が鳴った。
内容はベトナム語でのショートメールだったが、またいつもの広告メールと思いそのままにした。
するとすぐに、今度はホテル備え付けの電話がやかましいくらいに大きな音で鳴った。
電話に出るとそれはフロントからで、
「レディー!レディー!」と言っているのが聞こえた・・・。
[第2話 ナイトクラブの扉を叩いた田舎娘 終わり]
あとがき
ベトカラでは売春・風俗を推奨していません。昨今、クラブの摘発が次々とされており、日本人も逮捕されておりますのでご注意下さい。
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